小さい頃わたしの指定席は父の胡坐の中だった。

絵本を読んでもらったり、テレビを一緒に見たり。
寝るときは父の創ったお伽話を毎晩聞きながら寝ていた。

わたしは二つも三つも向こうの学区の小学校へ通っていた。
だから近所にはクラスメイトがいなかった。
遊ぶ友達もなく、両親共に仕事を持っていたのでわたしは鍵っ子だった。
それでも本さえあれば留守番もなんでもなかった。

そんなわたしに父は本を沢山買ってくれた。
中でも世界少年少女名作文学全集、毎月一冊ずつ届くそれは厚さが5~6センチ程の
B5サイズくらいで中は細かい文字の二段組だった。
貪るように読んで、いつも2~3日でその細かい字で埋めつくされた本を読み終わって、
次が届くのが待ち遠しかった。
小公女、小公子、三銃士、ジャン・バル・ジャン、千夜一夜物語り、グリム童話
アンデルセン童話たくさんのお話を読んだっけ。

父は画集も買ってくれた。わたしがお小遣いを貯めて買った東山魁夷の画集を見て、
残りを毎月一冊ずつ買って来てくれて全集が揃った。
今も大切にしまってある。

父は何も言わず逝ってしまった。

季節外れの雪が降った夜、
花びらの渦巻きの中で泣いた日、
手渡されたお骨の温かさと重さに空を仰いだ日。

また桜の季節が来る。