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『昔々そのまた昔、ある村にゆきと言うきつねが住んでおりました。
名前の通りほっそりとした白毛のきつねでした。
隣村から大工仕事に通っていた銀が手にケガをし困っていたところ、通りかかったゆきが手当をしてあげたのです。
次の日からゆきは銀のケガの様子を見に来るようになりました。
二匹はきつねヶ森の原っぱを、仲良く手を繋いで歩きました。
銀が白い花をたくさん摘んであげると、ゆきは花の冠を編んで銀の耳や胸元に掛けてあげます。
銀が仕事で訪れた遠い町の話しをすると、ゆきは歌を歌ってあげるのでした。
二匹は夕暮れの空を見上げながら歌いました。
そんな二匹でしたが、ある日を境に銀ばぱったりと姿を見せなくなりました。
ゆきは待ちました。
風が吹いても、雨に濡れても、冷たい冬の寒さの中でも、はらっぱの真ん中に座り待ち続けました。
銀は師匠の言いいつけで、遠い町に仕事に出かけたのです。
今のように電話などがなかった時代に、ゆきにそれを知らせる術がありませんでした。
銀の仕事はいくつもの季節が過ぎても終わりませんでした。
ある雪の日の朝、銀に手を振って別れた川岸でゆきが倒れているのが見つかりました。
体はやせ細り、白く輝いていた毛は汚れていました。
手には花の首飾りを握ったまま、もう冷たくなっておりました。
森の仲間たちは、ゆきをきつねヶ森の原っぱに運んでお墓をつくりました。
その後もっともっとたくさんの季節が過ぎ、銀がようやく帰ってきた時、お墓のまわりにだけ白い花がたくさん咲いていました。
遠くから見たその様子は、今でもゆきがそこに座っているように見えました。
「ゆき 帰ったぞ・・・」
銀は白い花の中に立ち、いつまでもゆきの名を呼んだのでした。 』