きつね恋歌

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金次とコン太はもちろん、まさおもギターが弾けました。

「俺もギターやるっ!」 

しょう吉もスーパーのバイトをしてお金を貯め、みんなに教わりながら弾き始めました。

相変わらず毎日のようにコン太の家で集まり、少しずつ多くの音が重なっていくようになりました。

そんなある日、まさおが幼馴染を連れてきました。

 「こいつ ドラム叩くんだ。」

話し始めるとすぐに顔が赤くなるのに、尻尾の毛はふさふさと真っ白な狐のしろ尾です。

同い年だけにすぐに打ち解け、それからの毎日はそれぞれの親狐たちには内緒で進められて行きました。

 「なんか最近しょう吉の様子が変だと思わない?」 

夕ご飯を食べながらしょう吉ママは言いました。

「どんな風に?」

「うーん なんだか楽しそうで、忙しそう。」 「ライブがなんとかって言ってるけど・・・」

「楽しい時期は短いんだから、それを楽しめれば良いんじゃない?」 

しょう吉パパはテレビから目を離さずに答えました。

パパもママも、楽しく毎日を過ごす事が一番大事なことと考えていました。


コン太パパが使わない日には、コン太家のスタジオで練習。 使えなければ、狐が森の貸しスタジオで練習。

貸しスタジオを借りる事ができなかった日は、森の端っこの原っぱで練習。

その音は、いつの間にか風に乗って遠くまで聞こえるようになっていました。

狐が森にはあちこちにカフェがあり、年寄り狐たちのおしゃべりの場になっています。

「あれはなんの音なんじゃろなぁ」 「ああ この間からよく聞こえとるなぁ」

「なんだかって言う音楽らしいでぇ」 「あれが?」

「わかいもん達は何を考えとるのか ようわからんなぁ」

ハス池から取ってきた葉っぱで扇ぎながら、年寄り狐達は茶飲み話に花が咲くのでした。


一人、ギター歴が出遅れたしょう吉は毎日家でも練習です。 

集合住宅なので大きな音を出せません。ギターを抱えているつもりで、指の練習です。

今 よくテレビで人間がやっているエアギター、昔から森の仲間の世界にはあったんです。

練習 練習 とにかく曲として聞けるようになるまで練習でした。

その間にバイトもして、学校もちゃんと通っていました。 もっとも寝てる時間がほとんどでしたけど。

 コン太は得意のPCの腕を生かして、ビジュアル系の宣伝とマネージャー役を担当。

金次としょう吉はギター。まさおがベースを、しろ尾がドラムを担当。

曲を作るのは金次の仕事。

その曲は昔からの狐歌でもなければ、ようやく流行り始めたロックでもなく、なんとも奇妙なものでした。

 「今週の土曜日 狸村のホールでやるぞっ」 

リーダーの金次がメンバー達にそう告げたのは、狐が森の原っぱが茶色に染まった頃、もうすぐ冬になるある日でした。

しょう吉達は、お客さんの前で演奏することになったのです。

名前は “run ”。 

もっと厳しい練習が始まりました。

練習しても練習しても、しょう吉の演奏は下手くそでした。 

それでもメンバーの足を引っ張ることだけはしないようにと、指が痛くなるほど練習しました。