dear

月にうさぎが住んでいると信じていた頃、わたしはお下げでもなくおかっぱ頭でもなかった。

パッチンどめで横分けにした髪をとめていた。

落ちてくる前髪を横に向くようにしたってことは、頭を撫でてくれたって事。

わたしは両親に頭を撫でられて育ったんだ。



月でうさぎが餅つきをしていると信じていた頃、わたしは口紅もマニキュアも知らなかった。

母の鏡台から紅い口紅をみつけて、大人になったら自分も買うのかしらと思ったものだ。

口が小さいから紅い口紅をひくと映えると解ったのは、随分と経ってからだった。

わたしは両親から小さい口を授かったんだ。



長い黒髪と紅いくちびる。

あなたが触れるたびに、揺れさざめくもの。

わたしの 愛しいもの。