きつね恋歌

ネタがないので 以前書いたお話を載せます。




----------------------------------------------------
狐が森の真ん中、大通りから一本横に入った所に、その学校はありました。

「おはよう」 「おいーっす」 「まじぃー?」 「だるぅ」 「うぜ~」 「またね」 「ばいば~い」と賑やかな声がたくさん風に乗って校庭から聞こえていました。

今では区画整理が進んで、五枚葉ヒルズなんてお洒落な高層ビルができたために、学校はなくなってしまったのです。

これはまだ狐の生徒達が大勢通っていた頃のお話です。


 「今日 うちに遊びに来いよ」 そう声をかけたのは、頭の毛を金髪に染めツンツン立てたコン太でした。

コン太はちょっと小柄な狐、背中の毛が金色に輝いて育ちの良さをうかがわせます。

人懐っこそうな笑顔で 「パソコン教えるよ。 遊ぼうぜ。」 と二匹を誘いました。

「どうする?」 「いく 行く」 「行きたい」 「行こうぜ」 としょう吉とまさおも笑顔で答えました。

しょう吉は柔らかい頭の毛をふわっとなびかせた痩せ型の狐、まさおは短い毛がスポーツマンらしいがっしりとした狐でした。

二匹は、入学式で隣り合わせの席になって以来、いつも一緒でした。

「すげえな おまえんちパソコンあるんだ」 しょう吉がビックリした顔で聞くと、「スタジオもあるよ」 とコン太は済ました顔で答えます。

「すたじおぉぉぉぉ?」

「俺んちのとーちゃん歌手なんだ」「兄ちゃんはギターやってる」 しょう吉もまさおもぽかんと口が開いたままでした。

わくわくとドキドキで午後の授業なんて耳に入りません。

鼻眼鏡の先生が何か話しているけど、聞こえません。いつもの眠気も吹っ飛びました。

「コン太の家までどうやって行くの? 五枚葉駅から電車?」 

「源チャで二けつ。」 さらっと言ってのけるまさおに、しょう吉は今度は一人心臓がひっくり返りそうになるのでした。 


まさおのバイクの後ろに乗り、コン太のバイクと二台で走ります。

若葉色の5月の風が気持ちよく顔を打ちます。

きつねヶ池のコン太の家までは鼻歌2曲分でした。

緑のつたの這う白い壁がグルッと家を囲んでいて、その向こうに青いとんがり屋根と煙突が見えました。

「さあ 入れよ。」 「あ とーちゃん 友達連れてきたから~。」 広い大理石の玄関を入ったとたんに紹介された狐がコン太パパでした。

「テレビで見たムーミンパパに似てるな。」 しょう吉が思ったとおり、コン太パパはちょっとぷっくりした白っぽい狐で、こめかみに白い毛がチラホラ混じっていました。

「かーちゃん ともだち~。」 「あら いらっしゃい。出かけるから後はよろしくね。」 大きな荷物を持ったパパとママは出かけていきました。

コン太の後ろを歩き、分厚いドアを開けたところがスタジオです。

たくさんの音響機器や楽器がありました。散らばっている花のレイや、見た事もない海や山の写真が目につきました。

「俺んちのとーちゃんとかーちゃんはハワイアンバンドやってるんだ。」 「はわいあん?????」 しょう吉もまさおも言葉は聞いたことはあっても、知らない音楽でした。

そう言えばコン太ママは耳に白い花を飾っていました。二人揃って今夜はコンサートです。

アンプにギター、見るもの触るもの全部しょう吉には初めてのものばかりでした。

コン太の部屋へ戻り、今度はパソコンの扱い方を手取り足取り教えてもらっていると、「ただいま おーい コン太帰ってるかぁ」 声がしました。

ドアを開けたそこに立っていたのは、ギターを持った背高のっぽの狐。頭の毛は剃り上げてありました。

「俺の兄ちゃん、音楽やってるんだ。」 

しょう吉とまさお、コン太・金次の出会った日でした。



       つづく