確率

普段、知ったかぶりをしてあれこれ書き散らしている身から出た錆(さび)で、読者の方からときにむずかしい質問をいただいて頭を悩ます。何日か前のお便りで、「過去から現在に至る人類の総数」を聞かれた◆存じません、では愛想がないので書棚を引っかき回し、アーサー・クラーク著「2001年宇宙の旅」の一節をコピーして返信に添えた。〈時のあけぼの以来、およそ一千億の人間が地球上に足跡を印した…〉とある。数字の当否は見当もつかない◆はがきをくださったのは、埼玉県内の若いお母さんである。じきに1歳を迎えるお子さんの寝顔を眺めていて、ふと、「この子の母親になれたのは人類で私ひとり…」と気づいたことで兆した問いという◆「一千億人のなかで一番」の幸せをかみしめるのか、育児の疲れを「一千億分の一」という奇跡のような縁(えにし)の糸で癒やすのか、数字の使い道は分からない◆青い鳥の住処(すみか)はチルチルとミチルの物語で知っている。知っていながらついつい忘れ、いつも不機嫌な顔ばかりしている。思い出させてくださって、ありがとう——返信に書き落とした1行をここに書く。

(2009年4月7日01時39分 読売新聞 編集手帳より)

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古より続く人間の繋がり。親子であったり恋人同士であったり、友人との出会いであるかもしれません。
仮に一千億としても、その中で出会う確率はいったいどれくらいの数字になるのでしょうか。
宿命とか運命だとかは思いません。でも紅い糸は信じたい。
糸を手繰り寄せてくれた、あなたに感謝します。
そして一千億分の一のあなたが大好きです。