悲しい夢

弟が亡くなった後、半年くらい悲しい夢を見た。

 「家を買ったから遊びにおいで」という言葉に、みんなで車に乗って出かけるのだけどいつまで経ってもたどり着かない。
真上から見ると迷路の真ん中に家があって、その窓から「おーい ここだよ」と弟が呼んでいる。間違いなくそっちに向かっているはずなのに着かなかった。迷路の中を行ったり来たり、ぐるぐる回っていて、最後にはわたしが癇癪を起こし泣き出した。
 もうひとつは大きなスーパーの駐輪場で自分の自転車を見失った。わたしは一台一台確かめて歩いたけど、何百台とある同じような自転車の中から自分の自転車を探し出せなかった。
息子がわたしの誕生日に買ってくれたばかりの大事な自転車。誰も手を貸してくれなかった。夜まで探した。
目を開けたら夢だった。夢の中で本当に泣いていた。

 そんな朝が続いたある日、わたしは階段を踏み外して落ちた。
足に湿布を貼りソファに寝転びながら、誰にも解らないだろうから誰にも話さないと決めた。母にも解らないだろう、「親より先に逝くなら弟より姉(わたし)の方が良かった」と葬儀の最中に言い放った母には。

その後わたしは家の外では誰とも話さなくなった。